風車監督官日報

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村上春樹「木野」とか好きだなと思ったものたち

村上春樹ではずっと「神の子どもたちはみな踊る」が一番好きだったのだが、千葉駅のなかのくまざわ書店で駆け足で買った「女のいない男たち」収録の「木野」がとても良く、一位に躍り出てきた。

ランニングシューズの営業マンだった主人公の木野が妻の不倫を機に脱サラしてバーの店長になり、ようやく平穏な日常を送れるくらいに落ち着いたと思ったところから不穏な影が日常に忍び寄ってきて、事情通な謎めいた客に「逃げ回れ、はがきを出せ。宛名以外書くな」と命令され、それから……。という、ホラーだろこれ、という短編なんだけど、ちゃんと結末らしい結末があるのが面白い。ぐねぐね踊って主人公がなにかを理解して終わり、とか、キーパーソンが失踪して終わり、とかではない。木野が自分の心の中の問題にちゃんと向き合って、答えを出すところを見届けられたのがとても良かった。

 

最近睡眠が不規則だし安心して眠った感じがしない。ここ1ヶ月。夜中に起きたり、朝早く起きたり、起きると気持ち悪かったり。それに機嫌が悪いと会社や道端でボロボロ泣いてしまって止めるのが難しい。色々見当のついてる原因はあるが、すっかり解決できるようなことでもないので、だまって見ている。というか、今まで見ないようにしていたことが噴出しての現在の状況なので、どうしたらまた見ないようにできるかしらと思ってたのだけど、「木野」をちょうどそのタイミングで読めたことで、あーちゃんとしないとな。と思い直した。ただ地獄を進む者が悲しい記憶に勝つ、って星野源も言ってるしな、と腹をくくれたのでこの4月5月は大成功だったと思う。

 

カネコアヤノを初めて聴いた。友人に「祝日」のライブ映像を見せてもらって、なにこの肉食の鹿みたいな眼の怖い女……とびびって、でもとても好きだなと思ったのでずっとその1曲を聴いてる。

 

好きな女性シンガーと言えば寺尾紗穂と永原真夏なので、今月は寺尾紗穂がピアノ・ボーカルのバンド「冬にわかれて」も久しぶりに聴く。来週アルバム出るので楽しみ。

セカンドの1曲目「もうすぐ雨は」は歌詞がすごく怖い。雨がもうすぐ止むと言われた主体はその言葉を信じて外出し、曖昧な約束をたよりに人に会おうとする。主体の、信じる という行為を、その結果がどうなったのかには言及せず、ただ尊重する歌だと思った。最初は描写にウェイトを置いてると思って安心して素朴な気持ちで聴いていたのに、後半で急に寓意とモチーフの話が挿入されたことに驚き、この不意打ちに電車の中だったけどポソポソと泣いてしまった。まじで素晴らしいな、寺尾紗穂の歌詞まじで素晴らしい。

 

5月に30度超えてて笑う。ほんとに暑い。