風車監督官日報

風車を監督している

12月20日 家の話

12月20日 火曜日 晴れ 4℃ 風速2m/s,N

 

借りなかった部屋のことを考える。

一件は川沿いの家族向けアパートだった。こぎれいでバルコニーから河川敷が見えてすばらしいと思ったが、俺には賃料が高すぎた。それにその河川敷は夜な夜な学生が集まって花火をするので、住むのにはおそらく不適だった。

二件目は今の居住地よりもバスで二十分ほどかかるところで、これは一人か二人暮らし用のアパートだ。小さな寝室が二部屋と細長いキッチンダイニングがあり、バルコニーがない代わりに板張りのサンルームがあって、この辺じゃめずらしい間取りですごく気に入った。しかし仕事場まで遠いし店も少なくて住むには不便そうだった。

三件目も二件目と同じ区画で、これは笑えたが候補にはならなかった。小さな二階建てが三棟つながったテラスハウスなのだが、まず外壁が青かった。目が痛くなるようなセルリアンブルーで、それだけならユニークで済んだが玄関を開けたらダイニングキッチンの床が赤白チェック柄のリノリウムだったので、俺はずっとまぶたを親指でおさえていないと立っていられなかった。リビングの壁はオレンジ色で、床には芝生のように毛足の長いライトグリーンのカーペットが敷かれていた。今にも閃輝暗点が起きそうだった。絶対にこの部屋で二日酔いしたくないと心から思った。

結局一番家賃が手ごろで仕事場に行きやすい、通り沿いの部屋に決めた。けれど今でも時々、俺の体から離れた幽霊が「ここにします」と言って選ばなかったすべての部屋に住んでいるような気がする。そして無理して馬鹿高い家賃を払っているのに真夜中の騒音に悩まされたり、サンルームで花を育てようなんて変な気を起こして結局枯らしたり、酔っぱらってカーペットの毛をすべてむしったりしているような気がする。どの俺もそこそこ失敗したと思っているだろう、俺も同じだ。